【第10回】国際交流活動論③

〈仲間と共鳴したいという人間的音楽的なつながりによって、地球は優しく暖かい曲を交響させることでしょう。〉

私が世界アマチュアオーケストラ連盟を海外の仲間と設立したとき、彼らが敬意をもって接してくれたのは、私の音楽の才能ではなくて、私が日本の文化について誇りを持っているということを知ったからでした。どの国の代表も自国の文化やことに言語については信じられないほど誇りを持っています。
〈2004年4月〉

 オーケストラはもちろん個々の音楽技術の上に成り立った建築物のようなものですが、それはいろいろな意味で妥協の産物でもあります。妙なはなしですが、例えばヴァイオリンのグループにとんでもない天才がまぎれこんだとしますと、その音ばかり突出して、トータルとしては良い音がしなくなる可能性があります。
 ここに私たちの抱える矛盾があります。つまり優れた芸術性を競うような集団は、市民感覚になじまないということです。もっともその逆の、うまくもないのに威張りちらされるのも困りものですが。個々の芸術的な自由を守りつつ、集団として協調の精神が尊重されるようなオーケストラはないものでしょうか。
 以前WFAOの会議で、「いいかげんにお互いの技術自慢はやめようではないか」という発言がありましたが、私たちはどこまで行けば、これから発展する国々やまた見ぬ仲間への視座がもてるのでしょうか。
 本源的に考えれば、音楽を共有することはそれがレベルの低いものであろうと、人間としての原初的な喜びであります。それを素直にさせてくれないものは何か。WFAOをNPO法人にした目的は、もっと広くより深く根を張り、素朴に感動を共にする手段としてのアマチュアオーケストラを目指していこうとするものです。
 ベトナム、ミャンマー、タイやマレーシア、そしてインドなどの諸国。アフリカでも南アメリカでもまだ見ぬ仲間がいる。それは決して能力や技能が優れているわけではなくても、仲間と共鳴したいという人間的音楽的なつながりによって、地球は優しく暖かい曲を交響させることでしょう。
〈2007年12月〉

 「日本アマチュアオーケストラオーケストラ連盟(JAO)」は今年から、国際交流部門を新たな組織である「NPO法人世界アマチュアオーケストラ連盟(NPO-WFAO)」に移管した。先進的な欧米の仲間や、圧倒的な技巧で世界に旋風を巻き起こしたベネズエラの青少年たちへの賛辞はむろん惜しまないが、しかし私たちの夢は音楽技術への願望だけではないはずだ。それはいまだ出会わぬ近隣諸国の若者や、ヴァイオリンなど見たこともない躍動的な褐色の子どもたち。熱帯雨林から氷原の国まで、将来、このキャンプを卒業した諸君が、NPO-WFAOの音楽使節として楽器を担いで地球の各地に出かけていってくれないか。そして地球が交響する日を夢みよう。
(2008年3月)