【エピローグ】ラスト・メッセージ

〈私たちはいよいよ非常に自省的な、内面的な事に取り組む時期が来たと思います。〉

 9か月にわたり連載を続けてきました『森下元康のアマチュアオーケストラ活動論』は、今回で最終回を迎えます。連載の最後は、生前最後のスピーチからの抜粋です。

 2010年1月、森下は前年より病気療養を続ける中で体調を整えてJAOの事業に出向き、参加者に渾身のスピーチをしました。ここで森下元康が伝えた最後のメッセージは、「日本のアマチュアオーケストラの演奏技術は非常に高くなってきましたが、私たちは次にどこへ行けばいいのでしょうか?」という問いかけでした。
 50年の星霜をアマチュアオーケストラと共に生きた男の“ラスト・メッセージ”、その結語の一節を掲載します。

技術が飛躍的に高まった「爛熟期」

 「日本アマチュアオーケストラ連盟(JAO)」は1972年(昭和47年)に23団体で設立しました。
 振り返ってみますと、最初の「創成期」は立ち上げた頃の苦しみ、そして次第にオーケストラも増え人数も増え、技術も上達してきた「成長期」、そして1990年代終わり頃からは演奏技術が非常に高くなって、「爛熟期」に入ってきたようです。最近のJAOフェスティバルの曲目は、びっくりするような大曲ばかりです。
 そんな中で、「私たちは次にどこへ行けばいいのだろうか?」と考えました。
 私は次の段階を目指して、「プロとアマチュアとの境界線はどこにあるのだろう?」と自問自答しました。これまで私は、アマチュアという言葉にとても苦しめられました。「アマチュアの人は気楽でいいねぇ、いざとなれば辞めればいいのだから」とか、「しょせんアマチュアだからねぇ」とか言われました。それが悔しくて悔しくてたまりませんでした。そこで考えたことは、技術が上手くなること。そして「自分たちのオーケストラの音を持つ」ということです。

自省心と向上心のある「魂」を持つ存在へ

 これからはいよいよ非常に自省的な、内面的な事に取り組む時期が来たと思います。単に弾いているだけでなく、それが自分の身体や精神の中でどのように作用しているかということを常に確かめていくという方向に進みましょう。そうすれば、アンサンブルは自然に合ってくるはずです。
 私たちは次の、もう少し上の段階へ行きたい。そうなるともうプロもアマチュアも、垣根がなくなると思います。アマチュア(amateur)はイタリア語で「愛する」という意味のアモーレ(amore)が語源で、まずは音楽を愛していればいいわけです。一方プロの人はアーティスト(artist)ですが、我々アマチュアも一生懸命勉強して、職人(アルチザン artisan)のようでありたいと思うのです。その職人の中でも魂がある、自分たちで自省をして伸びようという向上心のある、「魂」を持つ存在でありたいものです。

おわりに

 アマチュアオーケストラ活動は、いよいよ次の楽章に入って行きたいと思います。どうか皆様、それぞれの故郷のお仲間たちと、音楽と関係するもっともっと深みのある話をしてください。
 皆様方のオーケストラで、さらに深いところから、もっと高みから、アンサンブルが、音楽が響き渡りますようにお祈りいたします。