【第8回】国際交流活動論①

〈言語も人種も地理も乗り越え、楽譜と楽器さえあればすぐ仲間や友達としての関係を結ぶことができる。国際交流のリテラシーとして、オーケストラにまさるものはない。〉

 1991年から始まった青少年オーケストラ指導者の交流がきっかけで、過去4回の国際フェスティバルを開催してきた。誤解や先入観にとまどい、過度の誇りや虚栄そして偏見にも遭遇したが、もっと多くの仲間と知り合い今やっていることを伝えたいというごく単純な好奇心のような思いが私を前に押してくれた。
 今までに世界23か国以上の人々とつながりを持ち、連盟どうしが友好提携しているドイツのような伝統国から、アフリカのヨハネスブルグのスラム街の青少年合奏団までさまざまな諸相と出会ってきた。
 言語も人種も地理も乗り越え、楽譜と楽器さえあればすぐ仲間や友達としての関係を結ぶことができる。国際交流のリテラシー(読み書き能力)として、オーケストラにまさるものはない。まだヴァイオリンを見たことも触ったこともない人たちが、少数派でなくなる日が必ずやってくる。オーケストラという地球語を自由に語ることのできる日が。
〈2008年6月〉

『世界青少年オーケストラ協議会(WYOC)』設立共同メッセージ〈1991年3月30日〉

 我々は、それぞれの国や地域において、音楽活動を通じ青少年の健全な成長に努力を傾けてきた。ことにオーケストラは、クラシック音楽そのものの美である情熱、典雅、繊細、豪壮といったあらゆる人間感性の表出が可能であると同時に、それ自体がひとつのコミュニティであり、厳しい自己鍛錬と柔らかな協調精神の陶冶(とうや)の場として青少年教育にふさわしい機能や形態を有するものである。
 しかし、現代社会は多様化の時代であり、ひとつの国や民族ですらさまざまな価値観がひしめき合っているのが実情である。その上、緊張の続く国際情勢下にあって、青少年の精神的な成長を育もうとする社会的要求や文化活動に対する必要性は声高(こわだか)に叫ばれてはいるものの、果たしてその実効性や機能は、どの国においても充全に働いているであろうか。
 こうした背景の中で私たち青少年音楽活動の指導者は、単に技術的に優れた青少年を選別したり、才能の面だけに注目したりせず、より深く幅広い音楽観や意欲をもたせることを第一の目的にしたい。なぜならその目的こそ、「音楽の本質や価値について考えたり感動したりすることは、宇宙や人間の存在におけるアイデンティティについて感じ、洞察することに他ならないことである」と教える最もよい方法であるからである。21世紀を間近に控えた世紀末のこのような状況の中で、私たちはこれからも個々の努力を各国において続けていくと同時に、視野を地球規模に広げ互いの活動や理念を、敬意をもって学び合い、新たなネットワークを創造していかねばならない。それは新しい友情の始まりであると同時に、新世紀の文化活動、青少年活動の展望でもある。
 ここに『世界青少年オーケストラ協議会』は、世界各国の青少年や指導者の交流並びに情報や体験を交換する場として1993年の『世界青少年オーケストラフェスティバル』日本開催(予定、名古屋)に向けて努力することを決議する。