「第41回トヨタ青少年オーケストラキャンプ」開催レポート〈JAO主催事業〉
2025年3月26日(水)~ 29日(土)
日本/国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)
〈指揮〉
キンボー・イシイ(元 シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州立劇場(ドイツ)音楽総監督)
〈研修曲目〉
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調
昨年の第40回記念大会で一区切りしたTYOCは、その新たなスタートを東京で切った。日程は2025年3月26日~29日の4日間、会場となった「国立オリンピック記念青少年総合センター」は、満開を待つ五分咲きの桜が世界からの参加者を迎えた。今回の海外参加は、韓国3名、台湾3名、フィリピン1名、ノルウェー2名で計9名の青少年と、韓国、台湾、フィリピンから各1名の指導者だった。
このキャンプの特徴は、大きく二つある。一つは、日本の第一線で活躍するプロの演奏家が各パートに配置され、きめ細かな指導を行うこと。もう一つは、企画・運営を参加者の中から選抜された運営委員会が行うことである。特に後者は、世界でも珍しい教育プログラムとして注目されている。
キャンプ開催前日の3月25日、運営委員の企画・運営により、海外参加者を歓迎する企画とパーティが行われた。企画の内容は、日本の工芸品である“扇子”に絵を描くというもので、日本の文化を体験してもらうこの粋な計らいは、互いが打ち解けるのに十分な効果があった。
その後もキャンプ全体が運営委員を中心に進められるが、これこそが初めて参加する者にとって最も大きな刺激となっている。
これまでのキャンプと勝手が違った点は、今回の会場はとても大きな施設のため貸切ではなく、多くの団体が利用していた。特に朝は500名を超す様々な団体の青少年が一堂に朝食をとる。食堂の入口まで続く長蛇の列、それが整然とまるで一つの生き物のように移動しながら、食べ物をよそい、食事を取るという光景は、海外参加者の眼にはどのように映っただろうか。
さて、キャンプ1日目、13時半からの開会式に続き、130名による合奏が行われた。研修曲は、ブラームスの「交響曲第2番」、R.シュトラウスの「ドン・ファン」、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。難曲ぞろいである。それを、今回タクトを取ったキンボー・イシイ氏は巧みにまとめていく。必死に食らいつくメンバー、講師の先生方のサポートも的確だ。曲はみるみる形になっていった。
夜には各パートに分かれての練習が行われた。楽器ごとの基本的な奏法に始まり、研修曲のポイントを各講師が見本を示しながら進めるレッスンは大変充実していた。講師の先生方の技量もさることながら、青少年を育てようという強い熱意が伝わってくる。その後もキャンプ最終日まで、練習は合奏とパート練習をおりまぜながら進んでいった。
2日目の昼に行われたレクリエーション企画は実に和やかだった。海外参加者も、日本人参加者や講師と一緒になって大いに楽しんだ。
3日目は夕方16時から特別コンサート(プレコンサート)が開催された。ゲストの「東京子供アンサンブル」は障碍者も一緒に歌うインクルーシブな合唱団、その清澄な歌声に続きTYOCメンバーは、シベリウスの「フィンランディア」と研修曲の一部を演奏した。わずか2日間の練習とは思えない息の合った演奏に万雷の拍手が沸いた。コンサートに続いて行われた懇親会が大いに盛り上がったのは言うまでもない。
今回のキャンプではもう一つ特筆すべきことがある。それはTYOCの卒業生が、時を経て指導者として戻ってきたことだ。韓国からの参加団体の指導者として活躍するソヨンさんは、13年前にTYOCを経験した卒業生である。今回は参加者を引率する指導者という立場で再び参加してくれた。また今回からオーボエ講師を務めていただいた神農広樹氏もTYOCの卒業生。今回参加したTYOC出身の指導者(講師、参加団体の指導者、スタッフ)は全部で6人、TYOCの伝統は着実に根付いている。
最終日は、プレコンサートで取り上げなかった残りの曲を中心に合奏が行われた。そこで青少年たちが示した一体感は目を見張るものがあり、既に一つのオーケストラとして完成しつつあるようでもあった。今回のキャンプのテーマは「結 ~音と音をつなぐ 人と人をむすぶ~」、それを参加者・指揮者・講師の皆が見事に体現していたといえる。
そして閉会式。キャンプを終えた彼らは来年の再会を期して別れ、それぞれの地元へ、母国へと帰って行った。満開になった桜に見送られながら。